【休業要請】店名公表されたパチンコ店は損害賠償訴訟を起こせる? 焦点は「行き過ぎた行為」かどうか

大阪府の吉村洋文知事が、新型インフルエンザ等対策特別措置法の45条と国のガイドラインに基づき、休業の協力要請に応じない府内のパチンコ店10店舗(4月28日時点)の店名を公表しました。さらに、「正当な理由」がないのに休業要請に応じない場合、知事は「休業の指示」ができ、このときも改めて店名が公表されます。

しかし、特措法では、こうした要請や指示に従わなくても何ら罰則もなく、営業許可の取り消しなどもできません。むしろ、「十分な金銭的補償がない以上は従業員やその家族の生活がかかっているのだから、休業することは死活問題であり、簡単には休業できない」とパチンコ店が主張し、行き過ぎた行政処分だとして損害賠償訴訟を起こす可能性もあります。

その場合、パチンコ店が裁判に勝つ可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

目次

国家賠償法に基づく賠償請求

Q.休業要請に応じないパチンコ店の店名を公表することは、特措法と国のガイドラインに定められています。しかし、公表すれば世間からの批判を集める効果もあり、現に店名公表後に3店舗(4月28日時点)が休業するなど事実上、営業することに罰を与える効果があります。行政側が間接的に休業に追い込める法体系についてどう思われますか。

佐藤さん「『行政側の指導等に従わない場合、その名前を公表する』という仕組みは、日本の法律として珍しいものではありません。こうした公表は、市民への情報提供や行政指導などの実効性を確保する機能を果たすほか、従わない者への制裁として機能することもあります。

パチンコ店の店名公表についても、休業要請をした店名を広く市民に伝え、それらの店に入店しないよう呼び掛けるという情報提供として行われたものでしょう。結果として公表された店は、社会から非難されることとなり、事実上、制裁としても機能しているように思います。

公表の制度は、社会の一員としての自覚に働きかけ、自主的に行政の指導などに従ってもらう方法としては有効だと思います。ただし、制裁としても機能する以上、事前に事業者とよく話し合うなど、手続きは慎重に行うべきでしょう」

Q.今回行われた大阪府のパチンコ店の店名公表では、手続きは慎重に行われたと思われますか。

佐藤さん「報道によると、大阪府は政府のガイドライン通り、実地調査をして、対象施設への事前通知を行い、再三協力を求めたにもかかわらず、従わなかったパチンコ店について公表を行っています。また、専門家の意見も踏まえた上で、特措法45条の要請に踏み切っており、手続き面で問題はないように思います」

Q.「十分な金銭的補償がない以上、従業員や家族の生活を守るために休業できない」という主張は、仮に裁判になったとして、「休業できない正当な理由」として扱われるのでしょうか。

佐藤さん「特措法45条3項は、事業者が『正当な理由』がないのに要請に応じないとき、必要あると認めれば『指示』を出せることを定めています。ここで『正当な理由』とは何なのか、法律の解釈が問題になります。

今のところ、決まった解釈が存在するわけではありませんが、『従業員や家族の生活を守るため』だけでは、『正当な理由』にあたらない可能性が高いでしょう。それが『正当な理由』にあたるのであれば、どの事業者も生活のために堂々と要請に従わず、行政は指示も出せないことになり、国民の生命や健康が害されることになってしまいます。

政府は、国民一人一人に10万円の給付を決めるなど、国民の生活を守るための方法をいろいろと考えています。もちろん、これだけで足りるものではないと思いますが、国民の多くがウイルスの影響を受け、何らかの制約のもと戦っている今、事業者には国民の生命と健康を最優先にする判断が望まれています」

Q.例えば、どのようなことが「正当な理由」にあたると思われますか。

佐藤さん「特措法の要請は国民の生命や健康を守るためになされるものなので、一時的であっても施設の使用を認めなければ人の命や健康にかかわるような事情があれば、『正当な理由』にあたるのではないかと思います。

具体的に想定するのはなかなか難しいですが、条文に列挙されている社会福祉施設(通所または短期間の入所により利用されるものに限る)で、短期間の入所を認めないと命に危険が生じるケースなどでしょうか」

Q.店名公表による休業要請が行き過ぎた行政処分として、パチンコ店側が損害賠償訴訟を起こすことは法的に可能なのでしょうか。可能なら、どのような法律を根拠に訴えられますか。

佐藤さん「『政府や自治体による公表は違法であり、それによって損害を被った』として、国家賠償法に基づく賠償請求をすることは可能です(憲法17条、国家賠償法1条1項)。公表行為の違法性を争った国家賠償訴訟は過去にも存在し、裁判所は違法性の判断基準として、公表行為の(1)目的(2)方法(3)生じた結果――を挙げています(東京高裁2003年5月21日判決)。

今回のパチンコ店の店名公表は(1)新型コロナウイルスの感染拡大を防止し、市民の生命や健康を守るためになされており、非常に重要な目的があります。また、(2)パチンコ店における感染リスクが高く、休業が必要であることは専門家も指摘しているところであり、公表する必要性、緊急性、合理性が認められ、方法として適当であると考えられます。

これらの点を踏まえると、(3)店側に一定の損害が生じたとしても、違法性が認められる可能性は低いでしょう」
「公共の福祉」と「人権」の関係

Q.公共の安全・健康を守るため他に方法がない場合、基本的人権が制約され得る「公共の福祉」という考えがあります。今回のパチンコ店の一連の出来事に限らず、世間の人が「健康に過ごす権利」のために、パチンコ店など事業者側の「営業する自由」が制約されています。制約される側は犠牲が伴いますが、この犠牲はどこまで我慢すべきなのでしょうか。

佐藤さん「平時においては、『営業する自由』は人権の一つとして当然尊重されます。しかし、人権は命あってのものです。医療崩壊を防ぎ、国民の命を守るという『公共の福祉』のためであれば、やはり今は、営業の自由は一定期間、我慢せざるを得ないでしょう。

そうなると、事業者としては、新型コロナのせいで休業せざるを得なかった分の損失を全て国や自治体に請求したいと思うはずです。その方法として考えられるのが、損失補償の請求と、前述の国家賠償請求です。国家賠償法に基づく賠償請求をする場合は、国家の行為が違法でないと認められず、今回は違法といえる可能性が低いと考えられます。

一方、適法な公権力の行使により損失が生じたとして、請求することはできないでしょうか。そこで、損失補償の制度が問題になります。特措法には、62条以下で損失補償に関する規定がありますが、45条に基づく休業等の要請については損失補償の対象として定めていません。法律に定めがないから損失補償を求められないのかというと、そうではなく、判例上、憲法29条3項に基づき、損失補償を求めることが認められています。

ただし、損失補償とは、適法な公権力の行使により、特定の者に財産上の『特別の犠牲』が生じる場合に、公平の理念に基づいて、その損失を補てんする制度と考えられており、『特別の犠牲』といえなければ認められません。今回の休業要請は、国民の生命や健康を守るためになされていることなどから、『公共の福祉』のための事業活動に内在する社会的制約であり、『特別の犠牲』にあたらないとされる可能性が十分あります。

つまり、今回、事業者は国家賠償にせよ損失補償にせよ、新型コロナのせいで休業せざるを得なかった分の損失を埋められない可能性があります。ほとんどの国民が、新型コロナによる何らかの影響を受けている今回のようなケースでは、国や自治体に対して、各事業者が個別に発生した損失の支払いを求める方法は現実的ではないように思います。

このようなケースでは、国や自治体が協力金を用意したり、融資を受けやすくしたり、家賃の支払いの猶予を可能にしたり…とさまざまな政策を講じ、事業者や国民の生活を守ることが重要になります。事業者としては国や自治体に、今何が必要なのかなどを伝え、よく話し合うことが大切でしょう」

参照:https://www.news-postseven.com/

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