新型コロナウイルスに伴う1人10万円の特別定額給付金について、ギャンブル依存症から回復した人の約7割が「回復前に給付金があればギャンブルに使った」と考えていることが、支援団体の調査で分かった。
中には家族への支給分に手を付けかねないと示唆した人も。専門家は「依存症は病気」とした上で、家庭内で解決できない場合は早期に専門機関へ相談するよう求めている。(桑村朋、土屋宏剛)
県境またいででも
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」は、全国の緊急事態宣言が延長された5月6~7日、依存症から回復した216人やその家族292人に緊急調査を行った。
〈10万円を手にしたらギャンブルをしない自信なんて吹き飛ぶ〉〈真っ最中の頃なら、今頃はギャンブル三昧だった〉
設問の自由記述欄。今は依存症から回復したとはいえ、苦しんだ過去の恐怖がよぎったり、給付金そのものに複雑な思いを抱いたりする人もいた。
「依存症回復前に今のような生活(自粛生活)になったらどうしたか」との問いには、約7割の人が「ギャンブルで不安を払拭(ふっしょく)していた」と回答。「家族に当たっていた」は約42%、「酒や薬物などに依存する」も約34%に達し、依存症の人々に及ぼす自粛生活の影響が浮き彫りになった。
自粛期間中は、パチンコ店などに県境を越えてでも向かう人の存在が取り沙汰された。同会はそれを念頭に、パチンコ・パチスロ依存症だった人には「回復前に地元のパチンコ店が自粛していたらどうしたか」と質問。これに対し約6割が「都道府県をまたいででも営業する店を探して出かけた」と回答しており、「越境パチンコ」は起こるべくして起きた事態だったことを裏付ける結果となった。
家族の分まで…
「駄目と思いながらもやってしまうのが依存症の怖さです」。同会の田中紀子代表(55)が警鐘を鳴らす。
「依存症の人は不安感が高まるといらいらし、ギャンブルで解消したい衝動が高まる」と田中代表。自粛が解除された今、問題が顕在化しており、同会にも相談が急増しているという。
1人10万円の定額給付金についても、依存症との関連を不安視する声がある。「回復前に給付金10万円の支給があったら何に使ったか」。同会の調査でこう尋ねたところ、「自分の分だけギャンブルに使った」が約47%に達したほか、「家族の分も含めてギャンブルに使っていた」は約23%に上った。
田中代表は給付金について「ギャンブルの引き金になる可能性がある」と言及。調査結果から「依存症の人が家族の分も使い込む結果になりかねない」とも危惧し、「今の10倍は啓発などの対策を取らないと本質は改善しない」と話す。
専門家「依存症は病気」
なぜ非常事態でもギャンブルを優先するのか。
「依存症の人は自身の経済状況や周りの状況を冷静に考えられなくなる。不安の解消や現実逃避のため、ギャンブルを繰り返してしまう」。依存症治療を専門とする国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の松下幸生(さちお)副院長は指摘する。
今回のコロナ禍で、給料が減ったり、失職したりして、心理的に不安を覚えた人は少なくないだろう。それゆえに、強いストレスを感じた際、ギャンブルへの衝動が強まる傾向がある依存症の人々とコロナ禍の相関は深刻といえる。
「依存症は病気」と松下氏。「お金があれば百パーセント使ってしまう。金は家族が管理するなど対策を取り、少しでも気になれば専門機関に相談してほしい」と話している。